アドバイス

ダミー

現代社会に生きる私たちは、どうしても効率を重視しまうようです。最近話題になっているオーディオブックを愛用する人たちの多くが、「ながら」聞けるから便利、という理由を挙げます。電車に乗りながら、料理しながら、仕事しながら……。私たちのマルチタスクをこなしたくなる習性は止められないのでしょうか。

ポジティブ心理学で大切な概念の一つに、「味わうこと(Savoring:セイバリング)」があります。一般的には、ワインやコーヒーなど、その品質を主に香りや風味で確かめるために、ゆっくりと少しずつ飲むこと、として知られています。

心理学での「セイバリング」という概念は、米ロヨラ大学の社会心理学者フレッド・ブライアント博士によって提唱されました。これは、ポジティブな出来事に対する自分の感情をしっかり意識し、それに対して心を込めて関与することで、一言でいえば、ポジティブな出来事をしっかりと味わう、ということです。また、この「セイバリング」で、ウェルビーイング(幸福感)が高まるという研究結果が多数あります。

一方で、私たちの日常は、「セイバリング」とは程遠い状態にあることも、想像に難くないでしょう。

 


note: 起業家兼研究者が考えるクリエイティブ・メンタルマネジメント法 (今この瞬間を、味わう」)より         

    米ハーバード大学マシュー A.キリングスワース博士らは、2,250人のアメリカ人を対象にした「マインドワンダリング」の状態を調査しました。「マインドワンダリング」とは、文字通り、心が迷子の状態、つまり「心ここにあらず」の状態を指します。調査では、iPhoneを使って、1日に数回、「今の気分はどうか?」「今、何をしているか?」、「今、やっていること以外のことを考えているか?(つまり、マインドワンダリングか否か)」について、ほぼリアルタイムで、web上で回答してもらいました。

その結果、回答全体の46.7%がマインドワンダリングの状態であることが明らかになりました。さらに、マインドワンダリングな状態であると、幸福度が下がることも明らかになりました。マインドワンダリングで考える内容には、ネガティブなこと、楽しいこと、どちらでもないことの3パターンがありますが、興味深いことに、マインドワンダリングで楽しいことを考えていたとしても、「今この瞬間」に集中している時の幸福度には敵いませんでした。ましてや、ネガティブなことをあれこれ考えてしまうマインドワンダリングは、大幅に幸福度を低下させることがわかりました。


 

日々の生活習慣でウェルビーイングから遠ざかっているのは、残念ではありませんか?では、私たちは、いったいどうすればいいのでしょうか。

その有効な手段の一つが、「セイバリング」なのです。「セイバリング」には、過去を思い出してポジティブな感情に浸る、現在の出来事でポジティブな感情に浸る、未来のポジティブな出来事を想像する、つまり、過去・現在・未来の味わい方があります。いずれのセイバリングを行っても、効果に大きな差はないといわれています。

 

そこで、何かと忙しい現代人が、日常のちょっとした工夫で、しかも楽しく続けられる方法として、「現在」へ意識を向けるセイバリングの介入で用いられる、「マインドフルネス・フォトグラフィ(Mindfulness Photography)」をご紹介します。

「マインドフルネス・フォトグラフィ」のやり方はとても簡単ですので、以下に効果的な実施方法を記載します。

 

 

「マインドフルネス・フォトグラフィ」は、今ここに意識を向けて、「セイバリング」を行うための手法です。SNSに投稿するために、映えを意識したり、他人からのリアクションを考えたりして撮る写真ではありません。

他人に見せることは意識せず、ただあなた自身の心の目を開いて、「今、ここ」に意識を向けて、その「瞬間」を味わいましょう。そうすることで、日々のポジティブ感情が増幅し、当たり前に思っていた日々に有難さを感じられるようになるのです。ある先行研究では、2週間以上続けると効果が実感でき、もともとポジティブ感情レベルが低いほうが、効果を実感しやすいことが示唆されています。

また、写真を振り返ることは、日常的にポジティブ感情を増やす助けになると考えられますので、日記アプリを活用してみるのもいいのではないでしょうか。日記アプリには、シンプルなもの、ブログ形式で使えるもの、同日同月を振り返ることができるものなど、各種あります。写真をアップロードするだけでセイバリングのフォト日記になり、「どうしてこの写真をえらんだのかな?」「気分や感情にどんなふうに影響したのかな?」など、振り返る楽しみが増えます。

あなたに合った無理のない方法で「セイバリング」を取り入れて、日々のウェルビーイング(幸福感)を高めていきましょう。

 

参考文献:

・Kurtz, J. L., & Lyubomirsky, S. (2013). Happiness promotion: Using mindful photography to increase positive emotion and appreciation.

・Jeremy Sutton, P. D. (2022, July 11). Mindful photography: 11 therapeutic ways to use your camera. PositivePsychology.com. Retrieved November 22, 2022, from https://positivepsychology.com/mindful-photography/