マーケター & イノベーターのための ウェルビーイング時代のエモーショナル・マーケティング

「香り」と「手触り」2つの感覚刺激が一致すると商品評価が高まる?!

本記事の主な対象:

*フェミニンな香り×フェミニンな手触り、温かい香り×温かい手触りなど

五感をマーケティングに有効に活かすにはどうしたら良いのでしょうか?私たちの五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つの感覚器官)は、別々に作用しているようでいて、実は、視覚と味覚、嗅覚と触覚など、複数の感覚器官が互いに影響を及ぼし合っており、これを「クロスモダリティ(感覚間相互作用)」といいます。今回ご紹介する論文は、このクロスモダリティによって、2つの感覚(今回は、嗅覚と触覚)の刺激が一致すると、商品に対する評価が高まるという内容です。

このクロスモダリティ(感覚間相互作用)を身近に感じられる事例として、目隠しをして、鼻をつまんでオレンジジュースを飲むことを想像してみてください。飲食物の美味しさは、味覚だけの作用ではなく、視覚、嗅覚も大きく関わっているため、目隠しをして、鼻をつまんだ状態でオレンジジュースを飲んだ場合、オレンジジュースとすぐにはわからないはずです。

このクロスモダリティ(感覚間相互作用)を身近に感じられる事例として、目隠しをして、鼻をつまんでオレンジジュースを飲むことを想像してみてください。飲食物の美味しさは、味覚だけの作用ではなく、視覚、嗅覚も大きく関わっているため、目隠しをして、鼻をつまんだ状態でオレンジジュースを飲んだ場合、オレンジジュースとすぐにはわからないはずです。人間は舌で味を感じるのと同時に、目からの視覚情報、鼻からの嗅覚情報を総合してはじめてオレンジジュースの味を認識しているのです。つまり、人間の五感は独立して知覚を生み出すのではなく、各感覚器官がお互いに補完し合うことによって、認知を形成しているのです。

では、このクロスモダリティ(感覚間相互作用)をうまくマーケティングに活用するには、どうしたらいいのでしょうか?そのヒントになる具体的な2つの実験を見てみましょう。この2つの実験は、嗅覚と触覚のクロスモダリティ(感覚間相互作用)を実証しています。

 

この実験では、嗅覚と触覚という異なる感覚器官の間でクロスモダリティ(感覚間相互作用)が起こり、2つの感覚刺激が一致することで、商品の評価が高まったことが示されました。ここでは、性別(Gender)、つまり、「女性らしさ」、「男性らしさ」に着目して、感覚刺激の一致を操作していますが、性別(Gender)以外の要素でも、この結果が成り立つのか、興味が湧くところです。それが次の実験②で示されます。実験②では、性別(Gender)の代わりに、温度(Temperature)を採用しています。

 

 

実験②では、温度(Temperature)に着目して、感覚の一致を操作していますが、実験①同様に、嗅覚と触覚の感覚刺激の方向が一致している(温・温、又は、冷・冷)方が、商品の評価が高まりました。2つの実験で、性別(Gender)、温度(Temperature)という異なる要素で操作を行っても、2つの感覚刺激が一致すると、商品評価が高まるという結論が示されたことになります。このように考えると、性別(女・男)や温度(温・冷)といった要素以外でも、例えば、「高級感・親近感」、「クール・カワイイ」など、色々なパターンで同様の効果が見られる可能性があります。また、少し視点は異なりますが、2つの感覚刺激が一致することで、物事を認知する時間が早くなったり、情報の処理が改善したり、行動の正確性がアップしたり、という効果も報告されています。

 

 

応用1:チョコレート

嗅覚と触覚の感覚刺激が重要な商品として、例えば、食品、その中でも、プレゼントやご褒美需要として人気のあるチョコレートについて考えてみましょう。
チョコレートの舌触りはカカオビーンズの粒子の大きさが影響します。人が舌でザラツキを感じる最小単位は20ミクロンといわれており、粒子が小さいほどなめらか、大きいほどザラツキを感じるそうです。この理論を応用して、なめらかさを「エキストラス・スムース」から「エキストラ・ラフ」までレベル分けして、「なめらかな舌触り×フェミニンなフレーバー(フラワー系e.g.バラ、スミレ)」、「ラフな舌触り×マスキュリンなフレーバー(スパイス系e.g.シナモン、ジンジャー)」のように、嗅覚と触覚の組み合わせでアロマチョコレートの展開が考えられます。すでにカカオの含有量や産地による展開が増えている中で、新たな切り口でチョコレートの品質評価を高めることに寄与する可能性があります。また、一般的にチョコレートはなめらかなほど高級とされます。コモディティ化しているマーケットにおいて、滑らかさに応じた価格レンジを持たせることで、普段使いの中のプレミアム市場を開拓し、ご褒美消費を後押しすることができるかもしれません。

参考事例)アロマを纏う大人のご褒美チョコレート『EAU DE FLEURS』~オー・ド・フルール~/モロゾフ株式会社
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000191.000020853.html

 

応用2:ホテルサービス

睡眠の質への関心の高まりを背景に、快眠プランを提供するホテルが増えています。中には、睡眠のエキスパート監修の下、枕の硬さや香り、ベッドの硬さ、ライティングなどを研究してサービスを提供するホテルがあったり、ホテル独自のスリーププログラムと寝具メーカーのコラボレーションも盛んです。嗅覚と触覚の感覚刺激はまさにこのような流れの中で活用ができそうです。例えば、フロントでお客様の好みの「枕の硬さ・材質」を選んでいただく際、ルームアロマやピロースプレーの香りをレコメンド(e.g.枕の好み:ソフト×ラベンダー、枕の好み:ハード×白檀)、その幅を広げることで、ひとり一人に応じて客室でのクロスモーダルな体験を創出が可能となります。それは単に寝具に対してのみならず、ホテルサービス全体への高評価につながるかもしれません。また、このように枕の硬さ・材質と香りのクロスモダリティ(感覚間相互作用)が、入眠のしやすさや睡眠の質にも良い影響を与えるかもしれません。

参考事例)究極の快眠エクスペリエンス宿泊プラン「EMOTIONAL SLEEP」提供開始/ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000251.000029736.html

参考文献:Feminine to smell but masculine to touch? Multisensory congruence and its effect on the aesthetic experience

 

著者:板生研一
WINフロンティア株式会社代表取締役社長兼CEO/東京成徳大学経営学部特任教授/MBA、医学博士

  • 一橋大学法学部卒、東京大学大学院中退、英国ケンブリッジ大学経営大学院経営学修士(MBA)、順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了(博士(医学))
  • ソニー株式会社(現ソニーグループ)にて、エレクトロニクス及びエンターテインメント事業の事業企画・マーケティング等に従事した後、外資系コンサルティング会社等を経て、2011年にWINフロンティア株式会社を創業。
  • ウェアラブルセンサ等から取得した日常時の自律神経データを解析して、「ストレスの見える化」に関する医学論文を複数発表し、医学博士号を取得。
  • 研究領域:ウェルビーイング時代における感情マーケティングと消費者行動、従業員エンゲージメントと健康経営、ウェアラブルセンシングによるストレス・マネジメント
  • 主な著書:『生体データ活用の最前線 ~スマートセンシングによる生体情報計測とその応用~』 (第4節 心拍変動解析・自律神経計測による心身状態の可視化と応用サービス、 サイエンス&テクノロジー社、2017年)他多数

応用執筆:殿村江美
WINフロンティア研究所研究員、㈲E.flat代表、産業カウンセラー


大手広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。健康・美容分野での事業開発、ブランディング、商品開発などの経験を積む。多様なウェルビーイングがある中で、人々がポジティブな感情で生きられる生活価値をつくり、届けるマーケティング活動に注力する。

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